宝剣山荘を出発し宝剣岳へ取り付いた。
もともと高所恐怖症もちの私だが、何度も練習でこの様な場所を通っていると、免疫が出来るのか要領を得るのか、恐怖心が無くなり速い脚運びが出来るようになっていた。
山頂から空木岳方面を見る。
ガスで空木岳どころか檜尾岳すら見えないが、垣内選手とNHKカメラマンの背中が島田娘(宝剣岳の南側の肩)に見えた。
私も島田娘に到着する手前で、トレイルランナーの伊藤健太くんの逆走応援。
菅の台バス停から空木経由で木曽駒ヶ岳の日帰り往復ピストンとの事。
流石日本トップクラスのランナーはやる行程が凄い。
檜尾岳に向かう途中で垣内選手に付いていたNHKカメラマンが私に付き直したので、サービス精神旺盛に少し走ってペースを上げた。
はるか向こうに垣内選手の背中。
ペースを上げてるのに徐々に離されている。
垣内選手的にここで私を引き離したいのだろう。
15分程度の差まで開いた。
NHKカメラマンが私を抜いたと思ったら今度は垣内選手を追いかけ、数十分後に追い付いた。
カメラマンの強さは我々選手でもトップクラスと互角、いやそれ以上だ。
それもそのはず、2008年2010年のTJARで3位。望月選手と競った駒井さんなのだから。
私の後ろにTJAR2016で2位だった紺野さんが付き撮影。
紺野さんとお喋りしたい気持ちがあるがお互い我慢だ。
そしていま紺野さんは私を見てどう感じているのだろう。
紺野さんがもしアドバイスをくれるなら...
「 南アルプスに向けて脚をとっておけ 」だろう。
勝手にそう解釈し垣内選手を追わずマイペースを心掛けた。
檜尾岳に2時間で到着。
まあ普通よりちょっと遅いくらいだ。
熊沢岳方向の尾根に吉藤選手の背中も見えた。
垣内選手が縮めているのも分かる。
ここから2時間足らずで木曽殿山荘。
そこでもう一度足裏ケアをして食事もしよう。
熊沢岳まで50分で到着。
山頂に着くや否やいきなり豪雨となった。
すかさず上のレインウェアをすぐ着る。
雷が木曽駒ヶ岳の方向でガンガンなった。
光と音の間隔が10秒程度。
これは熊沢岳も雷が落ちる危険性がある。
山頂付近では出来る限り身をかがめ落雷を受けない様進んだ。
東川岳まで1時間。
ずっと豪雨に打たれっぱなし。
雷も更にすごくなっていた。
自分はあと20分で山荘なので良いが、後続は宝剣山荘から出れるのだろうか。
速い集団だった事のメリットがここで出た。
16:20 木曽殿山荘到着
吉藤選手と垣内選手が雨宿りを兼ねて食事休憩していた。
「 いや〜参ったね〜、カッパの中までびしょ濡れだよ 」
カップラーメンを注文し靴と靴下を絞った。
10分もしないうちに2人が出発。
すると雨が止んで来た。
私も足裏ケア後身支度し16:50に空木岳へ取り付いた。
ここから急に脚が動かなくなる。
空木岳まで早ければ40分、遅ければ50分の計算だが、更に遅いペースだ。
雨は止んでいての稜線は風が強く寒い。
濡れた手袋が冷えて痺れ始めた。
「 あー!もうヤダ! 本当空木キライ! 」
「 眠い... 」
1人愚痴りながら登ってるとNHKカメラマンの駒井さんがいつの間にか前におり撮影。
愚痴る事でその数秒間辛さを忘れられるので、愚痴愚痴言いながら1時間かけて登った所で空木の山頂が見えた。
「 やった! 空木サイコー!! 」
もうこの辺から寝不足でテンションがおかしくなっていた。
時計を見たら17:51。
予定では17:00空木だったが、遅れたのはスコールの影響が大きいだろう。
山小屋使用時刻の18:00が近い。
山頂からすぐ走って駒峰ヒュッテを目指す。
17:55 駒峰ヒュッテ到着。
管理人の片桐さんに会い、コーラを注文。
「 本当は15:00くらいにトップで来て、カップラーメンをここで食べたかったのにすいません 」
片桐さんは笑顔でこの順位と安全に来た事を評価してくれた。
小屋のお客さんも大喜び。
紺野さんもいたが、目を合わせただけ。
でも伝えようとしている事が分かった。
18:03
いつまでも手を振ってくれる片桐さん。
すると雲が急になくなった。
やっと見れた景色だった。
ここから長い池山尾根の下りだ。
2週間前はここを2時間10分で下っているが、今回は4時間かかるだろう。
それぐらい脚(ヒザ)の状態が良くない。
誰もいない池山尾根の樹林帯を1人黙々と降りる。
「 早く大地獄小地獄来てくれないかな。あそこ多くの人が亡くなってるから、ちょっとイヤだな。 」
相変わらずネガティブな思考が続く。
それにしても長い。
疲れてると長く感じるのは常だが、今日はその極みだ。
大地獄小地獄を慎重にクリア。
ホッとしたのか強い睡魔が襲って来た。
ゴロ寝したいが、スコールの影響で道は水溜り。
蛾もやたら多いのでひたすら我慢する。
「 あれ???歌が聞こえる.... 」
大橋純子のシルエットロマンスだった。
大橋純子が池山尾根にいる?
うそでしょ??!
池山小屋で宴会か??
いや、鮮明に聞こえるので小屋ほど遠くない。近くだ...。
「 茜色のシルエッート(シルエッート)。あー、あなたに恋心盗まれてー、もっとロマンス私に仕掛けて来てー 」
サビの部分だが私も歌った。
「 恋する、女は、夢見たな〜りの、いつもヒロイン、束の間の〜。
鏡に、向かって、アイペンシ〜ルの、色を並べて〜、迷うだけ〜。」
因みに私は歌詞を覚えていない。
でも大橋純子の歌声が聞こえるので合わせて結構歌った。
それにしても何とも色っぽい歌詞だ。
きっと大橋純子が空木岳に登って下山中だ。
スコールにも合い相当寒いだろう。
一般登山者にこの時刻は厳しい。
もっとペースを上げて追い付き助けなければ...。
「 待っててー!!すぐ追い付くからー!!! 」
大声で叫び小走りで下山した。
だが追っても追っても追いつかない。
シルエットロマンスは聞こえるのに...なんで??
木の根っこにつまづき転んだ。
後ろからヘッデンが勢い良く近付いた。
「 男澤さーん! 」
トップトレイルランナーの伊藤健太くんだ。
「 あれ?健太くん。もう追い付かれちゃった? それより今シルエットロマンス歌って無かった?? 」
「 歌は歌ってましたが、シルエットロマンスじゃないっす 」
「 そっか...では下山しよう 」
健太くんが来たお陰で目が覚めて少しだけお喋り。
すぐ上に船橋選手、更に上に江口選手がいるとの事。
でも2人ともペースが悪いとの事だ。
そこまで話すと健太くんは走り去って行った。
そしてまたシルエットロマンスが聞こえ始める。
20:50
池山小屋手前の水場で誰かが待っていた。
「 渡部です 」
TJAR2016 3位のベックスこと渡部選手だ。
ここでも「 ベックス聞いてくれ 」と足裏、ヒザの愚痴と弱音トーク炸裂。
遊歩道ルートで下山再開。
その途中で船橋選手に遂に追い付かれ抜かれた。
船橋選手は4回完走しており常に上位を維持。
選手間でも船橋選手の安定感は定評がある。
抜かれた後、登山口駐車場まで私がショートカットして駐車場の東屋に先に着いた。
東屋では吉藤選手が既に寝ていた。
いびきをかき熟睡していたので写真をパチリ。
私も就寝準備をして足裏の確認。
スコールでまた濡らしたがだいぶ良くなっていたのでシッカロン(ベビーパウダー)をまぶし乾かした。
船橋選手が登山口駐車場に到着。
ここで寝る事を伝えると、いつの間に抜いたの?と驚いていた。
7〜8分はショートカットで稼いだと考える。
ハニーエナジーのリカバリーを3袋飲み就寝。
しかし、ヒザがジンジン痛み身体が疲れているのに寝れない。
堪らずロキソニンを飲むが全然効かない。
脚を溜めているのに痛みが酷いのだ。
南アルプス聖岳で再度トップに立ち、ラストロードで逃げ切る計算だが、暗雲が立ち込めた。
怖いよ〜怖いよ〜
疲れが出てきて幻聴も…。しかもはっきり聞こえるなんて!
前回大会にはなかった現象ですか。
選手によって聞こえる歌、声が違うのもTJARならではですね。
この日くらいから寝不足感が酷くなって行ったのです....
>さん
>
>シルエットロマンス((((;゚Д゚)))))))
>怖いよ〜怖いよ〜
石田選手も幻覚幻聴が酷くて、一緒に歩いてて時々変な事を言うのです。
僕の匂い嗅いだり。
中央アルプスは応援ほとんど無いですし、稜線の風が強く短い割に選手のメンタルと体力がやられます....。
>
>中央アルプスは距離は短いですが、中身が濃いですね。
>疲れが出てきて幻聴も…。しかもはっきり聞こえるなんて!
>前回大会にはなかった現象ですか。
>選手によって聞こえる歌、声が違うのもTJARならではですね。