再度双六小屋から西鎌尾根に登り始める。
身体が熱い。
この2年の集大成がここからの2時間に掛かっている。
そう思うだけで更にヒートアップし加速する。
冷静に。いきなり抜くとドラマが無いし面白味、美しさも無い。
千丈乗越からの急登が勝負。
そこまで堅く着実に前との差を詰めて行こう。
硫黄尾根が左手に見えたと思ったら、あっという間に後方に行き見えなくなった。
2016で苦戦した鎖場。
前回は「 頑張れ!頑張れ! 」と自身を励ましながら登ったが、今回は鎖を使わずサクッとクリア。
拍子抜け。
それほど調子が良いのか。
09:56 千丈乗越通過
双六小屋から1:46は他の選手では出せないだろう。
自分的に1:40以内を目標にしていたが、途中登山ツアーの列があったので及第点といった所。
目安はここから30分以内で槍ヶ岳山荘だ。
通過して3分も経たない内に前に選手がいた。
石田選手だ。
足取りが異常に重く明らかに潰れている。
抜き際に「 どうしました? 」と聞くと「 高山病に.... 」と蚊の鳴くような声で回答。
更に2分で吉藤選手に追い付く。
NHKカメラマンにマークされていたが、九十九折のインサイドを利用しカメラマンごと抜いた。
私にくっ付き直すNHKカメラマン。
槍ヶ岳の手前でトップが2人も立て続けに変わったのだ。
美味しいシーンだろう。
付いて来ると期待していた吉藤選手が、これまた全然なペースでたちまち小さくなる。
「 付いてこい!(北アの)ラストだろう!! 」と激を飛ばすが戦意が感じられず更に離れて行く。
千丈乗越から槍ヶ岳まで30分。
この僅かな距離で10分以上引きはなせると感じた。
雨が強まる。
槍ヶ岳の小屋が見えたが、待っている応援者が少ない。
いや、応援者が慌ててふためいている。
あと3分。
一気に小屋から応援者が出て来て歓声が湧いた。
気分は最高だ。
10:22
「 一番槍取った!!! どうだ!!! 」と叫ぶ!
すごい人の数だ。
スタッフで友人の村上さんが驚き笑った。
誰が私のトップを予想したか。
100人居ても1人も予想出来なかったと思う。
だが私にはここにトップで到着出来る根拠と、作戦があったのだ。
2年間虎視眈々とこの瞬間を狙っていた。
これだから TJARは面白い。
応援者全員とハイタッチ。
すぐCPの表に名前を記載。
雨風が強い為小屋に寄らずすぐ出発する旨を伝える。
「 このままトップで逃げ切ります 」
NHKの取材もあったが、興奮してそれ以上何を喋ったか覚えていない。
すぐ下山開始。
作戦的には前後の選手が10分以上離れているならババ平まで全歩き。
林道でその分走る。
下りは全歩きとは言っても、早歩きでちょっと遅いトレイルランナーなら抜けるレベル。
Mt - channelのワコタさんとすれ違う。
私を前後する応援で来たトレイルランナーが若干ストレスだが、トップの人気税だと思うと嬉しかった。
ババ平に到着。
下界は晴れていた。
レインを脱ぎ、濡れた靴下を変えた。
靴の中がチャプチャプ言う程の水で嫌気がさす。
後はゆっくりジョグを開始。
だが登山者多くすぐ前が詰まるので実質歩きの感じ。
やっとガスが晴れて来たので上高地の思い出に適当に写真をパチリ。
思えばここまで景色を見ていない。
ガスと雨が殆どだったので見えなくて当然だが、終始上位で争っていたのでそれどころじゃなかった。
横尾に到着。
名古屋のランニングクラブの遠藤さんが応援に来ていた。
食事を頼もうとしたが、混んでおり時間がかかるとの事で、菓子パンと自販機で買ったポカリを補給。
その後6分/km程度のジョグで1時間足らずで徳沢に到着。(時刻は覚えていない)
熱狂的な TJARファンの方が複数おられたので記念写真に応じる。
テン場からの応援も凄い。
小梨平(上高地)が近づくと、林道でも混んで来てスムーズに走れなくなった。
ペースを落とし右に左に網目を縫うように早歩きで抜かせてもらう。
NHKカメラマンが逆走して来て同走。
小梨平(上高地)の第1CPが見えた。
すごい人だかりだ、100人?200人??
大きな歓声が上がる、写真もすごい。
見てくれ!!と言わんばかりにガッツポーズをした。
photo by sho fujimaki
14:20 上高地CP到着
実行委員の越田さんとグータッチ。
越田さんもまさか私がトップで来ると思ってなかっただろう。終始笑顔だ。
食事に行くが、食堂は16:00からとの事で事前情報不足。
売店でカップラーメン、菓子パン、グミ、コーヒーを買いお湯を入れた後外でストレッチ。
お尻の筋肉の張りが今まで経験した事が無い程。
ストレッチ中も登山者から記念写真を求められるので、都度対応する。
まだ写真希望の方が並ばれていたが、カップラーメンが伸びてしまうので、一旦ここで中止。
食堂でカップラーメンを食べながらストレッチ。
コーヒーを飲んだら一気に目が覚めた。
15分程でCPに戻るとちょうど吉藤選手が到着した。
食事に行くと言うので15〜20分差はそのままと思い足裏メンテ。
更にふやけており深刻。
これは一回思いっきり休んで治療した方がいい。
さー出ようと思ったら吉藤選手が食堂が空いてないから次に行くとの事で出発。
えーっ!!ちょっと!!
出発時刻がCP通過順位なので、いとも簡単にCPを取られた。
2分差で出発しすぐ抜き返した。
大正池でジュースを買う。
食堂が15:30なのですぐ提供出来るか聞くが「 普通です 」との事。
普通の尺度が分からないのでスルーする。
メニュー的に手の込んでそうなのばかりなので、ハマる可能性もありスルーは良い選択。
バスに抜かれながら上高地の終わりである“中の湯”交差点をジョグで目指す。
中の湯からは下りのロード。
トンネルを幾度も潜り次の補給、休憩ポイントの沢渡を目指した。
ジョグしながら携帯でGPSを確認。
吉藤選手と20分差は変わらず。
その後ろは更に1時間は離れている。
もしかしたらここから独走態勢に入るかもと思った矢先に足裏が激痛。
マメが裂けている。
ペースを落とし気分転換に携帯のメッセンジャーを見た。
TJAR本部メッセ確認。
ふとオンラインの案内で2016仙波選手のランプが点灯したので「 しぬわ 」とメール。
すぐ「 足裏ひでー」「 (皮が)べロンいきますよ 」と返信あり。
上高地CPのスタッフが共有メールで私の足裏画像を関係者に送信していた。
「 もうすぐ沢渡だから休憩とケアするわ 」と返信。
16:50
沢渡に到着。
アレ???!なんと仙波選手がそこに居た。
「 なんだぁ〜... 」
5分前までメールしてた事を照れ笑い。
ここで30分大休憩をする事に。
先ずジュースで栄養補給。
その後足湯で足裏のドロを落としその後シッカロン(ベビーパウダー)で乾かして10分横になった。

NHKカメラマンが撮影に来たので起きて対応。
そこで吉藤選手到着。
「 足裏平気?? 」と聞いたが、「 問題無いです 」との事でジュース補給してすぐ出て行った。
この違い靴下よりもインソールの問題が大きいと考えた。
吉藤選手の後10分後に出発。
すぐ雨が降り始めたが、雲と気温がおかしいのでスコールが来ると感じた。
案の定すぐバケツをひっくり返したような豪雨に。
沢渡最後の食堂に逃げ込む。
とにかくもう足裏は濡らしたくなかった。
これ以上悪化したら順位どころか完走も危うい。
これからはケアメインで堅く行く。
食堂でカレーを食べる。
今日最後の食事だろう。
良い場所でのスコールだった。
20程休憩したら小降りになったので女将さんいお礼を言いまた走り始めた。
1時間近くも休憩したし補給もしっかり取れたので調子が良い。
沿道の応援者から吉藤選手とは30分差との情報あり。
吉藤選手は道の駅である“ながわ山菜館”で仮眠するだろう。
そこで30分早く私が起きれば追い付く計算だ。
奈川ダムが近づくにつれてトンネルが狭くなって行く。
右側を走り車のライトが見えた時点でヒョコっと30cm程の歩道に乗り車をやり過ごす。
まるでスーパーマリオかなんかのゲームの様だが、これはリアルだ。かなり怖い。
特にアルファード?ベルファイア?ボクシー?その様なワンボックスは幅寄せしてくる。
本当この車種の人って....。
19:11
奈川ダム通過
ここでも応援があり嬉しいがジョグが快調なので、立ち止まらずそのまま奈川方面へ。
境峠、野麦峠へのトンネルもほぼ走る。
20:00過ぎになると睡魔が来て歩き始めた。
あと3kmで“ながわ山菜館”だがもはやグダグダ。
今すぐ寝た方がいいが、良い場所が無いし蚊も多い。
20:25
ながわ山菜館到着。
店員さんが居たので軒下で仮眠をして良いか聞いたら快く了承。
あれ?居るはずの吉藤選手が居ない。
GPSを確認すると奈川集落まで行っている。
でもそこまでの差は無いので、吉藤選手も相当苦戦しているのが感じ取れた。
きっとマルトまで行くのだろう。
強い。フィジカルも強いが、それ以上に気持ちが強い。
だが、その努力は讃えるものの明日朝には私は必ず追い付く。
逆に後ろから江口選手、垣内選手、近内選手が近づいていた。みんな粘るな...。
今夜中に吸収されるのが予測出来るが、足裏ケアの為3時間30分はここで仮眠する。
通常より30分長めだが、中盤に備えよう。
20:40
NHKカメラマンに撮影されながら就寝。
蚊がうるさくて熟睡出来ない。
おまけにヒザが痛い。伸ばしたり曲げたり、寝返りが多くうつらうつら。
21:10
江口選手到着。
軽く「 疲れてるが(ヒザと足裏が)痛くて寝れない 」と会話する。
それでも横になれる幸せ。
自販機も隣にある。
あー...0:00に起きたら何を飲もうか。
それだけが楽しみだ。
明日は雨が降りませんように。
明日は3日目で中央アルプス越えだ。
抑えながら南アルプスに備える作戦。
付近の選手層、間隔と天気から再度計画をPDCAをした。